家賃の支払いには契約上決められたサイクルがあり、入居者はそれに合わせて支払いを行わなければなりません。契約書の内容に沿わず、自分のタイミングで家賃を支払ってしまうと大きなトラブルに繋がるおそれもあります。
今回は、支払いサイクルの種類と、それぞれの違いについて解説します。また、1年分の家賃を前払いしたいと考えている人に向けて、1年分を一括で支払うメリットとデメリットも紹介していきますので、検討中の方はぜひチェックしてみてください。
目次
家賃の支払いサイクルは大きく2通り
家賃の支払いサイクルは、「前払い」と「後払い」の大きく2通りにわかれています。それぞれ支払い時期や特徴が異なるため、まずは双方の違いについて理解しておきましょう。
家賃の支払いサイクル①:前払い
「家賃の前払い」とは、翌月分の家賃を当月中に支払うことです。民法第614条で、家賃は後払いと定められているものの、日本には「契約自由の原則」というものがあります。それに則ると、当事者間の合意で結ばれた契約に対し、国家は干渉しないため、結んだ賃貸借契約書に前払いの旨が記載されていた場合、翌月分の家賃を当月中に支払う必要があります。
家賃の支払いサイクル②:後払い
「家賃の後払い」とは、当月分の家賃を当月中に支払うことです。支払い日に関しては賃貸借契約書に記載されているため、事前に目を通して確認しておきましょう。
また大家さん側からすると、後払いは当月まで家賃が支払われず、滞納のリスクがあります。そのため、賃貸物件の家賃支払いのサイクルでは「前払い」が一般的です。
家賃支払いにおける「前払い」や「後払い」は選ぶことはできる?
家賃の支払い時期について、ハードルは高いものの「前払い」「後払い」のどちらにするか交渉できる可能性があります。ただし、必ずしも大家さんが許可してくれるとは限りません。
先述したように、大家さんにとっての後払いには家賃滞納のリスクがあります。そのため、お互いに信頼関係を結べている状態でなければ許可は下りないかもしれません。
また、契約後の場合、支払い時期も含めて契約内容を承諾したことになるので、支払い時期の変更はむずかしくなります。相談は契約前に行い、なぜ支払い時期の変更が必要なのかを丁寧に説明しましょう。
家賃の支払いサイクルは「前払い」が一般的
前述のとおり、家賃の支払いサイクルは「前払い」が一般的です。次項から、前払いが採用される理由や目的について詳しく解説していきます。
前払いを採用している理由①:入居の意思を確認するため
前払いが採用される理由のひとつは、入居の意思を確認するためです。賃貸物件の初期費用は契約締結までに支払います。前家賃は初期費用の一部なので、あらかじめ前家賃が支払われれば、希望者に入居の意思があることを大家さんが確認できます。
入居希望者側としては、事前に家賃の支払いを済ませられるため、初月から滞納する心配がありません。前家賃として支払うのは、基本的に当月分の日割り家賃+1~2ヶ月目までの家賃です。何ヶ月先の家賃を支払うのかは賃貸物件によって異なるので、事前に確認しておきましょう。
前払いを採用している理由②:家賃を確実に回収するため
家賃を確実に回収するためというのも、前払いが採用される理由のひとつです。前述のように、初期費用として支払う前家賃は翌々月まで設定されることがあります。入居前に支払ってもらっていれば、入居後1~2ヶ月分の家賃滞納の心配がなくなり、大家さんも不安に感じることがありません。
入居後に関しても、翌月分の家賃を当月中に支払ってもらうことで、入居者が支払えない状況になっても突然滞納となる心配がありません。前払いは大家さんにリスクを負わせないという側面もあるため、安易に後払いへ変更してもらうのは控えましょう。
前払いを採用している理由③:退去時のトラブルを減らすため
家賃の支払いを前払いにすることで、大家さんは退去時のトラブルを軽減できます。たとえば後払いの場合、退去時の家賃を徴収し忘れる(入居者が支払い忘れる)といったトラブルが起こるかもしれません。
入居者が退去する際、退去日までの家賃は日割り or 1ヶ月分のどちらかです。先払いであれば、退去日までの家賃を前月に支払っているため、退去する月に家賃の支払いはありません。しかし後払い(当月の月末)の場合は、退去する月に退去日までの家賃を支払う必要があるため、リスク回避を考え先払いに設定する大家さんも少なくありません。
家賃1年分の前払いはできる?
家賃1年分の前払いは、賃貸契約を結ぶ両者に合意さえあれば可能です。日本において、「家賃は1ヶ月ごとに支払わなければならない」といった内容の法律はありません。そのため、家賃1年分の前払いを希望する場合は大家さんへ相談してみましょう。
ただし、1年分の前払いにはメリットだけでなく注意点もあります。メリット・デメリット双方を把握して、トラブルに発展しないほうを選んでください。
家賃1年分の前払いを行うメリット
家賃1年分の前払いを行うメリットは以下のとおりです。
<家賃1年分を前払いするメリット>
・家賃滞納の心配がなくなる
・家賃の支払い忘れがなくなる
・支出を管理しやすくなる
家賃を1年分前払いしておけば、事故や病気、リストラなどで突然収入がなくなったとしても月々の経済状況に左右されることがなく、滞納の心配がありません。家賃の支払いが完了している1年間は、安心して住み続けられます。
さらに、家賃の支払いを忘れる心配もないため、仕事で忙しい人、旅行などで長期的に家を空けることがある人も安心して過ごせます。銀行への振り込みや大家さんへの手渡しなど、支払いの手間まで省けるのも大きな魅力です。
また、家賃の支払いが1年間なくなることで、毎月の支出管理が楽になります。たとえば、一時的な臨時収入があった場合、1年分の家賃を先に支払ってしまえば今後の家賃についてしばらく悩む必要がなくなります。毎月の支出の項目がひとつ減ることで、冠婚葬祭や通院など急な出費が必要な場合に対応しやすくなることも魅力です。
家賃1年分の前払いを行うデメリット・注意点
家賃1年分を前払いするデメリット・注意点についてもチェックしておきましょう。
メリットだけに意識が向いてしまうと、思わぬトラブルで困ることになるかもしれないため、注意してください。
<家賃1年分を前払いするデメリット・注意点>
・大家さんに警戒される可能性がある
・途中解約の際はトラブルに発展するかもしれない
1年間の家賃を前払いするということは、1年後以降の入居が見込めないと大家さんから警戒されるおそれがあります。交渉次第ではありますが、たとえ後ろめたい理由がなかったとしても、警戒して契約してもらえないリスクがあることを理解しておきましょう。
また、「期待していた物件とは違った」「生活しにくい」といった理由で途中解約する場合、家賃の取り扱いに関してトラブルに発展するかもしれません。1年分の家賃を前払いする際は、途中解約するケースを想定した取り決めを大家さんや不動産会社、管理会社と行っておきましょう。
家賃の前払い・後払い双方のポイントを把握したうえで相談しよう
家賃の支払いサイクルには「前払い」と「後払い」がありますが、一般的なのは前払いです。これは、大家さんのリスクを軽減することが主な目的なので、安易に後払いのお願いをするのは避けましょう。家賃の支払いについて認識に齟齬が出るとやっかいなトラブルに発展してしまう可能性もあるので、契約書を確認しながら相談してみてください。
また、家賃1年分の支払いについては、大家さんや不動産会社、管理会社へ相談する必要があります。管理や契約上の問題があるため、詳しい理由も説明したうえで判断してもらいましょう。断れることも想定し、マナーを守って伝えることが重要です。
最後に、家賃を1年分まとめて支払うメリットやデメリット・注意点についておさらいしておきましょう。
<メリット>
・家賃滞納の心配がなくなる
・家賃の支払い忘れがなくなる
・支出を管理しやすくなる
<デメリット・注意点>
・大家さんに警戒される可能性がある
・途中解約の際はトラブルに発展するかもしれない
今後の賃貸契約の際、審査などに影響が出るおそれもあるので、無理な交渉は控えつつ、自分の意思を伝えてみてください。