納得いかない退去費用はどうする?対応方法や高額請求されないコツを徹底解説

電卓を片手に悩んでいる女性

賃貸物件から退去する際、請求の原因に心当たりがなかったり不当な高額請求をされてしまったりと、納得がいかない退去費用の請求で困ることも、トラブルとして起こりえます。そういったときに対処できるよう、退去費用に関する知識を事前に身につけておくことが重要です。

今回は、納得いかない退去費用を請求された際の対応方法や、高額請求されないコツをご紹介します。実際に高額な退去費用を請求された方はもちろん、これから引越しをしようと考えている方もぜひ参考にしてください。

そもそも退去費用とはどんなお金?

賃貸物件を退去する際、クリーニングや原状回復にかかる費用を「退去費用」といいます。原状回復とは、入居者が部屋を通常通り使用できる状態にして貸主へ返すことです。原状回復が必要なケースに経年劣化などは含まれないため、入居時の状態へ完全に戻したり、新築状態にしたりする必要はありません。

一方、入居者が故意に傷つけたり汚したりした場合には、入居者が修繕費用を負担します。この原状回復のために必要なのが退去費用であり、契約時に支払う敷金から差し引かれます。修繕費を引いて残った額は、入居者に返すのが敷金の基本です。

経年劣化によるキズや汚れは大家さんが負担します。入居者と大家さんが負担する線引きについては、のちほど詳しく説明するので確認してください。

納得いかない退去費用だったら「原状回復費用明細」を確認しよう

原状回復のどの項目を誰が支払うかは、国土交通省の「原状回復をめぐるガイドライン」に明記されています。入居者が通常通り部屋を使ったり掃除をしたりしており、床や壁に故意にキズや汚れをつけていなければ、基本的に敷金以上の請求をされることはありません。

※参考:国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

しかし、なかには高額な退去費用を請求されることがあります。国民生活センターによると、2021年に「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」へ寄せられた相談件数は約8,700件にのぼっており、敷金が返還されなかったり、敷金を超える費用を請求されたりしたことへの相談が多く寄せられています。

参考:独立行政法人 国民生活センター 「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」

もし納得いかない退去費用を請求された場合は、まず修繕内容や内訳を記載した「原状回復費用明細」を確認しましょう。「原状回復費用明細」を受け取った後は、次項で解説する2つのポイントを確認してください。

確認ポイント①:経年劣化による汚れやキズも含まれていないか?

国土交通省の「原状回復をめぐるガイドライン」によると、経年劣化や通常消耗による汚損は、大家さんに修繕義務があるとされています。もしそのような修繕費が入居者負担となっている場合、管理会社や不動産会社に確認しましょう。

また、後々傷をつけたつけていないなどのトラブルに発展しないよう、入居時は部屋の写真を撮影しておくことがおすすめです。管理会社や不動産会社に相談するときも、入居時の部屋の写真を見せることで話がスムーズに進みます。

確認ポイント②:復旧費用の単価は妥当か?

入居者の過失によって発生した損傷や汚れについては、入居者自身に修繕義務が生じます。しかし、必要以上の修繕費を支払う必要はありません。不当な請求なのか判断できるよう、修繕費用の相場を以下の表でチェックしましょう。

【入居者負担による修繕費用の相場】

壁紙の張替え1平方メートルあたり1,000〜1,500円
フローリングの張替え1畳あたり20,000〜60,000円
フローリングのキズの補修1平方メートル以下8,000〜30,000円

上記の相場はあくまで目安ですが、相場よりも遥かに高額な修繕費や、わずかなキズにもかかわらず全面的な修繕費用を請求された場合には、費用について確認を求めましょう。

入居者負担で退去費用を支払うケース

一般的に、修繕費用を入居者が負担するのは以下のようなケースとされています。

1.ペットによる臭いやキズがある場合
2.喫煙による臭いや黄ばみがある場合
3.故意につけた汚れやキズがある場合

上記3つのケースについて、詳しく見ていきましょう。

ペットによる臭いやキズがある場合

ペット飼育可能な賃貸物件でも、ペットによる臭いやキズが残った場合は費用を請求されます。たとえば、部屋にペットの臭いが染み付いていれば消臭代が必要です。また、柱やクロスなどについたキズや、ペットの糞尿が畳やカーペットにシミとなった場合の修繕費も入居者が負担します。

喫煙による臭いや黄ばみがある場合

たばこの臭いが部屋に染み付いたり、クロスなどが変色したりしている場合は入居者が修繕費を負担します。喫煙による設備の汚損に関しては、通常使用の範囲を超えたと判断されるためです。

喫煙による変色を避けるため、ベランダで喫煙する方も多いでしょう。しかし、ベランダでの喫煙は煙やにおいが流れることから近隣トラブルに発展しやすく、そもそも禁止されている場合もめずらしくありません。喫煙者の方は、部屋でたばこを吸うのを控え、決められた場所で吸った方が良いといえるでしょう。

賃貸物件で喫煙した場合の退去費用についてや、においや汚れを防ぐための対処法は、こちらの記事でも詳しく解説しています。気になる方はぜひ併せてチェックしてみてください。

▼関連記事
【喫煙者向け】賃貸物件でタバコを吸うと退去費用の負担は?壁や天井を汚さない対策も解説

故意につけた汚れやキズがある場合

入居者が「故意につけた」汚れやキズとは、主に以下のような場合をさします。

・入居者が引越しや模様替えで家具家電を移動した際にぶつかってできたキズ
・入居者の手入れ不足によってできたカビやシミ
・雨水が入り込むなど不注意によるフローリングの色落ち
・日頃の清掃を怠ったことによる設備の汚損
・壁や床への落書き

上記のように、入居者の過失によってついた汚れやキズは、入居者が修繕費用を負担します。家具や家電を移動する際には床や壁の養生をしたり、日常的に掃除をしたりと、あくまで借りている部屋ということを自覚して大切に扱いましょう。

大家さん負担で退去費用を支払うケース

続いて大家さんが退去費用を支払うケースを見ていきましょう。

1.経年劣化による汚れやキズがある場合
2.入居前から汚れやキズがあった場合

退去時に余計な費用を支払わないようにするためにも、上記2点について理解しておきましょう。

経年劣化による汚れやキズがある場合

先述のとおり、経年劣化や通常消耗による汚れやキズは大家さんが負担します。たとえば、冷蔵庫の裏の電気焼けや、日照による畳の日焼け、家具を設置したことによる床のへこみなどです。

経年劣化や自然現象などによる汚れやキズは通常生活のなかで避けられず、入居者側に非はありません。なお、寿命によって部屋の設備が故障した場合も大家さんが負担します。

入居前から汚れやキズがあった場合

入居前にあった汚損・破損についても大家さんが負担します。しかし、大家さんにとっては入居者によるものなのか、それ以前からあったものかは判断しづらいものです。自分がつけた汚れやキズでなくても、それを証明するものがなければ修繕費を請求される可能性があります。

前述でも触れましたが「自分がつけたキズではないのに退去費用を支払う」という事態を防ぐため、入居の際に汚れやキズを発見した場合には、スマホのカメラ機能を使って撮影しておくことが重要です。もともと傷がついていた証拠として認めてもらえるよう、家具を搬入する前に撮影しておきましょう。

納得いかない退去費用だった場合の対処法

故意につけたキズや破損がないにもかかわらず、高額な退去費用を請求されてしまった場合の対処法を5つご紹介します。

1.契約内容を確認する
2.保険の適用範囲を確認する
3.国民生活センターや消費生活センターに相談する
4.専門業者へ相談する
5.民事調停に申し込む

泣き寝入りしてしまう方も多いのですが、諦めずに行動してみましょう。

①契約内容を確認する

賃貸契約の特約によっては、入居者が負担する原状回復費用に、経年劣化や通常消耗も含めると記載されている場合があります。すでに成立した契約内容に、原状回復の費用負担について明記されていれば、原状回復のガイドラインよりも契約内容が優先されるのが一般的です。契約書と退去費用の見積書をチェックしつつ、管理会社や不動産会社に確認しましょう。

また、注意したいのが敷金ゼロの賃貸物件の場合です。入居時に敷金を求めない賃貸物件は、退去費用が高額になる場合があります。多くの場合、原状回復費用は敷金で補填しますが、敷金ゼロの物件はそれがないため、そのぶん退去時に請求される費用が高くなってしまうのです。

敷金の基礎知識については、こちらの記事で詳しく説明しているので参考にしてみてください。

▼関連記事
敷金返金の時期や相場額とは?トラブルを防ぐコツも伝授!

②保険の適用範囲を確認する

火災保険に加入していれば、付帯されている借家人賠償責任保険で原状回復費用をカバーできる場合があります。ただし、この借家人賠償責任保険は退去費用を補填するものではありません。偶発的な事故などで部屋の設備が損壊した際に、すみやかに申請をすることで受給できます。

なお、適用範囲や金額は火災保険の会社やプランごとに異なるので、どのような内容になっているかどうか確認をしましょう。

③国民生活センターや消費生活センターに相談する

高額請求に納得がいかない場合や、管理会社や不動産会社から曖昧な対応をされた場合は、国民生活センターや消費生活センターなどに相談してみてください。情報提供や、解決に向けたアドバイスをしてくれます。

また、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会や法テラスなどでも相談可能です。以下に、各組織の連絡先を記載しましたので、対処法がわからず困ったときは、一人で悩まずに相談しましょう。

国民生活センター(お昼の消費生活相談窓口)電話番号:03-3446-0999
受付時間:平日11時から13時(年末年始、土曜日曜祝日を除く)
消費生活センター電話番号:188(局番なし)
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会FAX:03-6265-1556(ホームページにある専用フォームからでも可能)
住所:
〒100-0004
東京都千代田区大手町2-6-1 朝日生命大手町ビル17階(公財)日本賃貸住宅管理協会「賃貸住宅に関するご相談窓口」宛
法テラス電話番号:0570-078374
受付時間:平日9時から21時、土曜日9時から17時(日曜祝日を除く)

④専門業者へ相談する

契約書に原状回復業者の指定がない場合は、入居者が業者を選ぶことも可能です。自分が納得した業者に依頼できるため、指定業者よりも金額を抑えられる場合があります。

ただし、大家さんが指定した原状回復業者が契約書に記載されている際には、この内容に従わなければいけません。

また、原状回復は引渡し予定日までに終わらせる必要があります。指定の原状回復業者でない場合、材質や仕上がりによってはやり直しを求められる可能性がある点にも注意してください。自分で原状回復業者を選ぶ場合は、問題がないか不動産会社や管理会社へ事前に確認するようにしましょう。

⑤民事調停に申し込む

国民生活センターなどの相談窓口でも解決にいたらず、話が平行線をたどる場合は民事調停を検討しましょう。民事調停とは、調停委員を間に挟み、話し合いによってトラブルの解決を図る裁判のひとつです。

裁判官と一般市民から選出された調停委員が両者の言い分を聞き、当事者同士の合意によって解決を目指します。この民事調停は訴訟よりも手続きが容易なことに加え、比較的短時間で解決できる点がメリットです。

また、民事調停にかかる費用はトラブルの額に応じて変わります。ただし、10万円の返済を求めるための手数料は500円、100万円の場合でも5,000円と安く済むのが特徴です。

政府広報オンラインによると、令和2年に裁判所が受け付けた民事調停は30,723件で、そのうち宅地や建物の賃貸、利用に関する調停は12.7%を占めています。手続きは一人でも可能なほか、費用や期間も訴訟ほどかかりません。しかし、合意内容は判決と同じ効力があるため、退去費用に納得がいかない場合は民事調停を申し込みましょう。

※参考:内閣府大臣官房政府広報室 『身近な民事トラブルを話合いで解決 「訴訟」に代わる「民事調停」』

納得いかない高額な退去費用を請求されないコツ

次は、高額な退去費用を請求されないためのコツを解説します。納得いかない退去費用をそもそも請求されないために、以下4つのコツを押さえ、トラブルを未然に防ぎましょう。

1.退去立ち会いは必ず同席する
2.徹底的にお部屋を掃除する
3.必ず見積書を作成してもらう
4.穴やへこみがあったら事前に直しておく

それぞれ1つずつ説明していきます。

退去立ち会いは必ず同席する

退去立ち会いとは、部屋を空けたあと管理会社や不動産会社と部屋の状態を確認する作業のことです。このとき、入居前からあったキズなのか、それとも自分でつけたものなのかを申告します。入居前に部屋の状態を撮影している場合、その写真を見せればより信憑性が増します。

忙しかったり面倒だったりを理由に退去立ち会いへ参加しない場合、心当たりのない範囲まで請求されるおそれがあるため、必ず同席しましょう。

徹底的にお部屋を掃除する

前述した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、水回りのカビや水垢、ガスコンロの油汚れなど、清掃を怠ったことが原因でできた汚損については入居者負担と明記されています。退去前、徹底的に掃除をするのはもちろんですが、日頃から定期的に部屋の掃除をしておけば負担も軽くなります。
床や壁のほかに、キッチンやお風呂、洗面台、トイレなどの水回りもきれいに掃除しましょう。

必ず見積書を作成してもらう

退去費用の内訳がわかるように、必ず見積書をもらいましょう。何にいくらかかるのか、修繕費用の内訳が明確でなければサインをする必要はありません。見積書の項目を確認して、よくわからない内容が盛り込まれている場合は訂正してもらい、内容に納得したうえでサインをしましょう。

また、一度サインをしてしまうと、基本的にあとからの取消がむずかしいため注意してください。

穴やへこみがあったら事前に直しておく

画鋲やピンの使用は通常使用の範囲となり、一般的には大家さんが修繕すると定められています。ただし、DIYによるネジや釘などは範囲の対象外となり、費用を請求される場合もあるため注意が必要です。

費用を発生させないために、自分で修復可能な穴やへこみがある場合、退去する前にあらかじめ直しておきましょう。また、画鋲やピンを使っても、契約内容によっては退去費用に含まれる場合があります。トラブルを防ぐために、跡が目立たないピンを使ったり、マスキングテープなどを使って貼り付けたりするのもひとつの方法です。

高額な退去費用を請求されないためには事前の対策がカギ

もし納得のいかない退去費用を請求されても、その場ですぐに応じる必要はありません。入居前からあった汚れやキズ、経年劣化や通常使用の範囲内での汚損にかかる原状回復費用は、基本的に大家さんが負担するものです。疑問点は管理会社や不動会社に確認し、修復範囲の線引きを明確にしましょう。

また、どこまでが自分の責任範囲なのか、契約内容の確認をすることや原状回復のガイドラインを知っておくことも大切です。

入居前には部屋の写真を撮ったり、日頃から掃除をして部屋をきれいに保ったりするなど、自分にできることを行って退去にかかる費用を抑えましょう。

ふどサーチ編集部