西日本に多く見られる「敷引き」とは?仕組みや特徴について確認しよう!

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賃貸物件を借りる際の初期費用として、「敷金」「礼金」「仲介手数料」などがありますが、その中に「敷引き」という言葉を見たことはないでしょうか。敷引きは西日本特有のものであり、馴染みがない人にとっては賃貸契約の際に戸惑ってしまうかもしれません。今回は、敷引きの仕組みや敷金・礼金との違い、また合わせて使われることが多い「保証金」についても解説していきますので、西日本で賃貸物件を探している方は参考にしてみてください。

西日本に多く見られる「保証金・敷引き」の仕組み

「保証金」と「敷引き」は、関西や九州の西日本エリアで多く見られます。東日本エリアから移ってきた人にとっては耳馴染みがないため、知らない人も多いのではないでしょうか。まずは「保証金」と「敷引き」について説明していきます。

保証金とは:貸主(大家さん)への預け金

保証金は、大家さんへ預けるお金です。入居者の家賃滞納、あるいは退去時の原状回復に使う修繕費用として使われます。大家さんへ預けるお金という点は、全国的に使われている「敷金」と同じ意味合いです。

2020年に行われた民法改正により、敷金は『いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭』と定義されました。
つまり、「保証金」の名目でも担保が目的の場合は敷金とみなされ、修繕費や家賃滞納額を引いたお金は入居者に返還しなければなりません。「保証金」は、返還可能なお金と覚えておきましょう。

敷引きとは:退去した物件の修繕費用

敷引きは、敷金や保証金として大家さんへ預けたお金の一部を返還しない特約のことを指します。敷金や保証金と同じく退去時の修繕費用として使われますが、修繕が必要な部分が少なく、費用がほとんどかからなかった場合でも敷引きの額は変わりません。また、部屋の使い方により修繕費用が敷引き額を上回った場合には、別途費用を請求される可能性があります。

敷引きという言葉を知らないと、「敷引きは敷金が割り引かれるもの」などと勘違いする方もいるかもしれません。敷引き額は敷金が割引される金額を指すのではなく、特約で決められた「返還されない金額」であると覚えましょう。

保証金と敷引きの仕組み

保証金と敷引きが一緒に表記されている場合、退去時の返還額に注意が必要です。

保証金は原則、退去までに家賃滞納がなければ、入居者に返還されます。しかし、敷引きがある場合、返還額は保証金から敷引き額を差し引いた額となります。

たとえば、家賃7万円の場合で考えてみましょう。「保証金3ヶ月分、敷引き1ヶ月分」と記載されている場合、入居時に保証金21万円(家賃7万円×3ヶ月)を支払います。しかし、退去時には敷引きの1ヶ月分の家賃7万円が引かれ、戻ってくるのは14万円となるのです。

東日本に多く見られる「敷金・礼金」との違いとは

西日本を中心に多い「保証金・敷引き」と、東日本に多く見られる「敷金・礼金」はどのような違いがあるのでしょうか。「敷金」と「礼金」について説明していきます。

敷金とは:貸主(大家さん)への預かり金

敷金は、賃貸契約を結ぶ際に大家さんへ預けるお金のことです。主に退去時の原状回復費用などに充てられるお金で、前述した「保証金」と同じ意味合いを持ちます。

敷金は、改正民法622条の2で『け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない』と定められています。そのため大家さんは、退去時に修繕費用を差し引いた額をを入居者に返還しなければなりません。

礼金とは:感謝の意味を示すお金

礼金は、入居者から大家さんへ部屋を貸してくれたお礼として渡すお金です。戦後の住宅不足の際に部屋を提供してくれたお礼として、あるいは進学や就職をする子どものために親が大家さんに心付けとして渡したなど諸説あります。いずれも、昔からの慣習として残っているもので、礼金は退去時に返還されません。

敷引き物件を避けるコツ

新居に引越す際には、賃貸契約の初期費用や引越し費用など多くのお金がかかります。費用を抑えるためにも、敷引き物件を避けたいと考える人は多いです。ここからは、敷引き物件を避けるコツについて解説していきます

1.必ず賃貸借契約書を確認する
2.敷金・礼金ゼロの物件を選ぶ

それぞれの内容を見ていきましょう。

必ず賃貸借契約書を確認する

賃貸物件を契約する際に不動産会社から賃貸借契約書が手渡されるので、敷引特約の記載の有無を確認しましょう。敷引き特約の記載がある物件で契約を結ぶと、「敷引きに納得して契約した」とみなされます。退去時になって「敷引きなんて知らない」とならないためにも、契約書を入念に確認する必要があるのです。

また、敷引きがある場合、それだけの金額を払ってでも住みたい賃貸物件かどうかを再度考えてみましょう。敷引き特約の理由を不動産会社に尋ね、納得した上で入居してください。

敷金・礼金ゼロの物件を選ぶ

最近では、敷金・礼金が不要の「ゼロゼロ物件」が増えています。これは文字通り、賃貸契約時に敷金と礼金を必要としない物件で、初期費用を大幅に減らせる点がメリットです。

しかし、敷金礼金が0円であっても、家賃が相場より高く設定されていたり、サポート料などの他の名目で金額が上乗せされているケースもあるため、注意が必要です。。

また、敷金が0円の場合、退去時に敷金で修繕費をまかなうことができないため、クリーニング代を入居者側が支払う場合もあります。ゼロゼロ物件と聞くと初期費用が抑えられるためお得に感じますが、実際にはトータルの費用が同じだったり、退去費用が高くなったりする場合もあるため、十分に注意しましょう。

敷引きについてよくある質問

敷引きは、東日本エリアの人にとっては慣れない慣習であるため、以下のような疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。

1.敷引きは今でもあるの?
2.敷金と敷引きは同じ意味?
3.敷引きは法的に問題ないの?

上記3つの質問に答えていきます。

敷引きは今でもあるの?

敷引きは減少傾向にありますが、今でも九州地方を中心に使われています。平成19年と少し前の資料ではありますが、国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査(不動産業者)」によると、平成17年4月〜平成18年3月に契約した物件のうち、敷引きの割合が多かったのは、兵庫県と福岡でした。

1位:兵庫県・・・96%
2位:福岡県・・・89%
3位:京都府・・・51%

東京都の割合が5.3%なので、関西や九州地方特有のものかがわかります。

しかし、敷引きは耳馴染みがないため文字通り「敷金が安くなる」と勘違いする人も多く、賃貸物件の検索サイトでは「敷金・礼金」の表記に統一されています。そのため、九州や関西地方の人であったとしても「保証金・敷引き」の意味がわからず、混乱してしまうことも珍しくはないのです。

減少傾向にあるとはいえ、現在も敷引きに関する記載がされた賃貸物件はあるので、契約の際には必ず確認しておきましょう。

敷金と敷引きは同じ意味?

敷金と敷引きは、大家さんが家賃滞納や修繕費に充てるためのお金です。用途としてはどちらも同じようなものですが、返還されるかされないかに違いがあります。

敷金については、入居時に預けた金額から退去時の修繕費用などを差し引いた金額が入居者へ戻ります。一方で、敷引きは返還する必要のないお金という特約であるため、修繕費用の多寡にかかわらず、入居者へ返金されることはありません。

敷引きは法的に問題ないの?

前述のとおり、敷引きは原状回復のための修繕費に充てられます。しかし、名目は異なっても賃料などの債務を担保する目的で差し引かれたのであれば敷金にあたるため、「違法なのでは?」と思ってしまいますよね。

結論としては、敷引きは、適正な範囲の金額であれば法的に有効と考えられています。

平成23年に、最高裁にて敷引きは「有効」とした判例があり、下記の3つの理由から「有効」と判断されました。

①敷引き特約が契約書に明示されているため、負担について入居者が合意した上で契約を締結している点

②退去時の修繕費に関するトラブルを防ぐ観点から不合理なものとは言えず、入居者の利益を一方的に害するとは直ちに言えないこと

③敷引き額が契約期間に応じて設定されており、極端に高額ではない点

なお、過去の判決を参考にすると、敷引き額が家賃の3.5倍程度まで、かつ礼金等の負担がない場合は「有効」と考えられます。

ただし、賃料の額や礼金・更新料の有無などに照らして「敷引きの額が高すぎる」と判断される場合には、消費者の義務を加重するとして消費者契約法10条に該当し、「無効」と判断される可能性があるのです

敷引きについて理解して自分に合った賃貸物件を探そう!

敷引きは入居時に大家さんへ預けた保証金の一部を返還しない特約のことであり、修繕費用の多寡にかかわらず入居者に返還されることはありません。敷引きという言葉を見かける機会は減りましたが、今でも地域によっては残っている慣習です。特に東日本から西日本へ引越しをする人は、敷引きが何かを知っておかないと退去時に「お金が返ってこない」と慌ててしまうことになるので、物件探しの際には敷引き特約について事前にチェックし、自分に合った賃貸物件を探しましょう。

ふどサーチ編集部