「賃貸物件の退去に高額な費用がかかった」といった経験をされた方も多いのではないでしょうか。賃貸物件の退去費用は、そのすべてが入居者負担となるのではなく、なかには支払う必要のない費用も存在します。
そこで今回は、賃貸物件の退去費用の相場や賃貸物件で重要な「原状回復」について解説します。また、退去費用を抑えるポイントも紹介していきますので、これから退去しようと考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
アパート退去費用の相場
2020年に株式会社プラスワンが行ったアンケートによると、賃貸物件の退去にかかる費用相場は4.9~9.0万円が平均です。まずは、退去費用の相場について、間取り別・居住年数別・平米数別で見ていきましょう。
間取り別で見る退去費用の相場
間取り | 費用負担の相場 |
---|---|
1R・1K・1DK・1LDK | 49,980円 |
2K・2DK・2LDK | 79,924円 |
3DK・3LDK・4K・4DK・4LDK | 90,139円 |
賃貸物件の間取りが広くなるにつれて、退去費用の相場は高くなります。その理由は、のちほど解説する原状回復費用が部屋の広さに応じて必要になるからです。
居住年数別で見る退去費用の相場
居住年数 | 費用負担の相場 |
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〜3年 | 49,431円 |
4〜6年 | 61,694円 |
7年〜 | 87,090円 |
賃貸物件に長期間住むと、その分退去費用負担が大きくなります。長く暮らすことで汚れや傷などが増え、その分の修繕費用として高額な退去費用が請求されます。
出典:株式会社プラスワン「間取り別・居住年数別の請求された退去費用(2020年)」l
アパート退去費用で知っておきたい「原状回復」と「ハウスクリーニング」
退去費用は、おもに以下の「原状回復費用」と「ハウスクリーニング費用」の2つに分類されます。
・原状回復:住んでいた部屋を入居前の状態に戻すことを指す。入居者には原状回復義務が定められており、一般的には賃貸借契約書にも記載されている。
・ハウスクリーニング:掃除の専門業者に家を丸ごと掃除してもらうサービスのこと
原状回復は、借りていた物件を元に戻すという入居者に課せられた義務です。
部屋を元通りにするために、大家さんは入居者に退去費用を徴収するのですが、どのような違いがあるのかどうかよくわからず支払っている方も少なくありません。ここからは「原状回復」と「ハウスクリーニング」について詳しく解説していきます。
「原状回復」とは?
たとえば、入居中に壁に穴を開けてしまった場合やひどい汚れをつけてしまった場合、退去時に元の状態に戻さなくてはなりません。その修繕のことを「原状回復」と呼び、修繕費用として求められるのが、「原状回復費用」です。しかし、すべての傷や汚れに原状回復費用を支払う必要はありません。
国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他の通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されており、その費用負担は借主にあるとされています。一方、経年劣化や通常の使用による損耗などの修繕費用は賃料に含まれ、不動産会社や管理会社の負担になることが一般的です。経年劣化とは、時間の経過によって品質が下がることを指す言葉で、具体的には普段の生活のなかで生じる設備の汚れや破損などが挙げられます。
原状回復費用は、修繕する箇所や量、範囲などによってそれぞれ変わっていきます。たとえば壁紙の張替相場は3〜4万円、下地ごと取り替える場合は3〜6万円ほどかかります。
また、フローリングや床などの張替相場は1万円前後です。家具家電を置いて生じたへこみは経年劣化とみなされますが、不用意にイスなどを引きずったりして床に傷をつけてしまった場合は、入居者負担の可能性が高くなります。
退去費用に含まれる「ハウスクリーニング代」とは?
国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、ハウスクリーニング代は経年劣化の範囲内であれば、入居者が負担する必要はありません。ただし、賃貸契約時に「特約」としてハウスクリーニング費用を請求する旨が記載されていれば、経年劣化内の汚れであってもハウスクリーニング費用を支払わなければいけません。
ハウスクリーニングに関する特約にはさまざまなケースがあり、ハウスクリーニングの全額負担を義務付けていることもあれば、具体的な金額を記載しているものもあります。ただし家賃を超えるような高額な費用を請求された場合、違法行為にあたる可能性があるため、不当な金額になっていないかどうか確認するようにしましょう。
仮に特約がない場合、一般的な汚れは経年劣化として判断されますが、普段きちんと掃除しておけば生じなかった油汚れや水垢・カビなどは経年劣化にあたりません。なお、退去時のハウスクリーニングは以下の清掃内容が一般的です。
・フローリングのワックスがけ
・キッチンやトイレ・浴室などの水まわりの洗浄消毒
・換気扇の油汚れ清掃
・エアコンの内部清掃
・ベランダの清掃
これらの内容も、とくにルールが定められているわけではないため、どこまで清掃するかは不動産会社や管理会社に一任されます。
アパート退去費用における原状回復費用負担はどっち?
原状回復費用の負担責任は、以下のように定められています。
・経年劣化の場合:不動産会社・管理者の負担
・故意や過失による傷や汚れ:入居者負担
故意や過失であれば入居者負担となりますが、この判断は比較的難しいものになります。ここからはさまざまなパターンを例に挙げて、具体的にどちらに費用負担の責任があるのかを解説していきます。
クロスの汚れや傷
貸主負担 | 借主負担 |
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・画鋲の穴 | ・釘やネジによる傷 |
・ポスターによる変色 | ・ペットやタバコによる汚れ |
・子どもの落書き |
勘違いされやすいポイントですが、画鋲の穴は通常使用の範囲とみなされます。そのため、賃貸物件であっても壁にカレンダーやポスターなどをかけても問題ありません。
また、ポスターによる変色も通常使用の範囲内です。そのため、これらの原状回復費用は貸主負担となります。
ただし、釘やネジによる大きな穴や傷は入居者負担になります。画鋲の穴とは違い、釘やネジの穴は通常使用の範囲を越えると判断されるのです。
なお、釘やネジを深く刺しすぎると、壁紙の奥にある下地ボードを傷つける可能性もあります。表面の壁紙張替とは違い、下地ボードの張替費用は高額になることが多いので、なるべくネジや釘などは刺さないように注意しましょう。
フローリングの汚れや傷
貸主負担 | 借主負担 |
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・陽の光による日焼け | ・重いものを落としてできた傷 |
・家具家電を置いてできたへこみ | ・家具家電を引きずったへこみ |
・液体をこぼしてできた汚れ |
日常生活において、床に陽があたることは避けられないことです。家具・家電を置くのも当たり前の行動なので、これらによって生じる傷や汚れは基本的に経年劣化とみなされます。
しかし、重いものを落としてしまうことでできてしまった傷やへこみは、少し気をつけながら生活をしていれば防ぐことができるといえるでしょう。そのため、上記のような行為によって生じる傷・汚れは故意・過失とみなされ、原状回復費用は入居者負担となります。
建具の傷や不具合
貸主負担 | 借主負担 |
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・通常使用して壊れた場合 | ・通常使用して壊れた建具を使い続けた場合 |
・網戸の自然的な損傷 | ・故意や過失による障子、網戸の破れ |
・災害でできた傷や不具合 | ・ドアの枠組みの破損 |
ドアや障子・網戸などといった建具については、通常使用していて自然に生じた傷や不具合は貸主負担です。長期間住み続けていると、網戸が劣化してはがれたりドアが開きにくくなったりすることがありますが、このような場合は経年劣化と判断されます。
しかし、経年劣化によって不具合が起きた状態を放置してさらに状態が悪くなった場合は、故意・過失による損耗とみなされます。通常使用の範囲内で不具合が起きた場合は、すぐに不動産会社や管理会社に連絡をして修理を依頼しましょう。
設備の故障
貸主負担 | 借主負担 |
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・寿命による故障 | ・日常の不適切な手入れによる故障 |
・掃除の不徹底による汚れ |
設備故障の場合、経年劣化が原因の故障は貸主負担、不適切な手入れなど故意や過失による故障は入居者負担になります。たとえば、備え付けのエアコンが寿命で動かなくなった場合は経年劣化となり、なにかをぶつけて動かなくなった場合は過失による故障と判断されるのが一般的です。
照明や給湯器などの設備全般も、上記のルールがあてはまります。シンクやダクト、水まわりの水垢などは適切な手入れをすることで対処可能です。そのため、これらは故意による汚れとみなされ、原状回復費用は入居者負担となります。
アパート退去費用を抑えるポイント
退去費用はなるべく安く済ませたいと考える方も多いでしょう。ここからは、退去にかかる費用を抑えるポイントや方法について解説していきます。
ポイント①:管理会社に交渉してみる
退去費用は管理会社への交渉次第で安くなる可能性があります。退去費用の見積もりをチェックし、高いと思う項目と理由を伝えることで、交渉がうまくいく可能性が高くなります。退去費用の価格交渉をおこなう前に、以下のポイントを明確にしておきましょう。
・高いと感じる項目
・上記の平均相場
・見積書の不明点
また、入居時点の部屋の状態がわかる写真があれば交渉がよりスムーズになります。そのため、入居前の傷や汚れがある場合は引越し直後写真を多く撮っておき、いつでも使えるようにデータなどに残しておくようにしましょう。
ポイント②:自分でできる限り汚れを落とす
さほどひどくない汚れであれば、事前に掃除して取り除いておきましょう。目立たない汚れであれば、経年劣化として判断されることも多くあります。とくに、以下のポイントが目立つ汚れとされています。
・キッチンの油汚れ
・浴室や洗面所、トイレなどの水垢
・壁紙やクロスの汚れ
これらについている汚れを落とすことができれば、ハウスクリーニング費用を抑えることができるようになります。定期的にチェックし、汚れが見つかったときは洗剤などを使ってきれいにしておきましょう。
ポイント③:事前に予防策を講じておく
入居中に退去のことを頭に入れつつ予防策を講じておくことで、無駄な費用を支払わずに退去できるようになります。事前にできる予防策として、以下のものが挙げられます。
・キャスター付きの家具の下にマットを敷く→過失による床への傷対策
・換気扇にフィルターを貼る→油汚れへの対策
・壁に保護シートを貼る→タバコのヤニや子どもの落書きへの対策
これらの対策は比較的簡単にできるので、実践できそうなものから試してみてください。
アパート退去費用が高いと感じたら管理会社に尋ねよう
退去費用が高いと感じた場合は、管理会社に詳細の内訳と理由を尋ねてみましょう。上記のとおり、交渉次第では退去費用を少なくできるかもしれません。
単に「高いから下げてほしい」と主張するのではなく、具体的な金額を提示しつつ、冷静に交渉する必要があります。もし納得できない場合は弁護士などに相談し、相場に合っているかどうか判断してもらいましょう。
退去費用を理解して支出を抑えよう
賃貸物件の退去費用は、住んでいた部屋を入居前の状態に戻すための「原状回復」に使われます。入居者の故意や過失によって生じた傷・汚れ・故障・不具合における原状回復費用は、基本的に入居者負担となります。退去の際に高額な費用を支払わないようにするためにも、定期的に清掃をおこない、大切に設備を扱うなど、なるべく丁寧な暮らしを心がけましょう。