毎月支払う固定費の中でも特に大きな負担となるのが賃貸物件の家賃です。
特に一人暮らしの場合、家賃以外にもさまざまな出費がかさみ、貯金ができずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そんな人にとって魅力的なのが住宅手当ですが、これは具体的にどのような制度なのでしょうか。今回は、住宅手当について、支給額の相場や支給条件をふまえながら解説していきます。
目次
住宅手当とは企業が家賃補助をしてくれる福利厚生制度のこと
住宅手当は企業が用意している福利厚生制度のひとつです。これは労働基準法で定められたものではないため、すべての企業が設けているわけではありません。
住宅手当は、社員の家賃の一部を補助するものや、マンション購入で組んだローンの返済費用を一部負担するものなどが一般的です。住宅手当の内容や支給額、受給条件などは原則企業側が決めるため、個人の希望で変えることはできません。
住宅手当の支給額の相場は?
厚生労働省の「令和2年就労条件総合調査」によると、住宅手当の支給額の平均は、17,800円でした。次に、企業規模別の平均支給額を見てみましょう。
企業規模 | 平均支給額 |
---|---|
1,000人以上 | 21,300円 |
300〜999人 | 17,000円 |
100〜299人 | 16,400円 |
30〜99人 | 14,200円 |
参考:厚生労働省 「令和2年就労条件総合調査」
上の表から、企業規模が大きいほど住宅手当の支給額が増える傾向にあることがわかります。
また、業種別でも支給額に違いが見られました。
厚生労働省の「平成27年就労条件総合調査」によると、住宅手当の平均支給額がもっとも高額だったのは、情報通信業の25,312円。反対に、支給額が少なかったのは、電気・ガス・熱供給・水道業の10,466円でした。
住宅手当と社宅はどっちがお得?
住宅手当は、毎月受け取る給料に家賃分が上乗せされます。これは課税対象となるため、社会保険や所得税、住民税などの負担が増える点に注意しましょう。
一方、社宅は企業から寮や戸建てなどの住まいを提供されます。
自己負担分として、給料から家賃分の額が引かれますが、課税対象にはなりません。節税対策の観点では社宅の方がお得といえますが、好きな住まいを選べないというデメリットがあります。
なお、企業が用意する社宅ですが、「借上社宅」と「社有社宅」の2種類があります。
ここからは、それぞれの違いについて詳しく解説していきますので、自分の状況に照らし合わせながらチェックしてみてください。
借上社宅
借上社宅は、企業が不動産会社と賃貸契約を結び、社員に社宅として貸し出すものです。
企業側が選ぶ場合と、社員が好きな住まいを選び企業の名義で契約を結ぶ場合の2つがあります。敷金・礼金などの初期費用は、主に企業側が支払うのが一般的です。
借上住宅のメリットは、社員にとっては契約手続きの手間が省け、家賃負担が減る点にあります。さらに社員が自由に部屋を選べる場合、より満足度の高い福利厚生になるかもしれません。
社有社宅
社有住宅は、会社が物件そのものを所有しており、部屋を社員に貸し出すものです。
社員とその家族が同じ建物や敷地内に住んでいるため、同僚や上司とプライベートの交流がしやすいというメリットがあります。
一方、職場以外でも社内の人と顔を合わせることが多いため、人によっては人間関係に悩む可能性もあります。プライベートを重視する方であれば、社有社宅での生活はストレスになるかもしれません。
住宅手当の支給条件は企業によって異なる
前述のとおり、住宅手当の支給条件は企業側が決めるため、明確な基準がありません。ここからは、一般的に設けられている住宅手当の支給条件を3つご紹介します。
1.正社員かどうか
2.一人暮らしかどうか
3.住んでいる物件が賃貸かどうか
順番に見ていきましょう。
➀正社員かどうか
まずは正規雇用の社員であるかどうかを見られます。アルバイトや契約社員などの非正規雇用の社員は、住宅手当の対象から外れる場合があります。
しかし、同じ労働条件であるにもかかわらず、正社員と契約社員で住宅手当の有無がある場合は、「同一労働同一賃金」に反することになります。
2020年に施行された「同一労働同一賃金」は、正規雇用者と非正規雇用者との間で、不合理な待遇差を解消するための制度です。
これにより、住宅手当を正規雇用・非正規雇用にかかわらず全員に支給する、住宅手当をなくしその分を給与に上乗せするなど、企業側の対応にもさまざまな変化が起きています。
さらに、住宅手当そのものを廃止して新たに別の福利厚生制度を設けるなど、正社員を基準とした住宅手当の支給条件は今後も見直されていくものとみられています。
➁一人暮らしかどうか
一人暮らしの場合、生活費の大部分を家賃が占めるため、社員の負担を軽くしたいという企業側の配慮によって支給対象とするケースも少なくありません。
また「世帯主」を支給条件としている場合、一人暮らしは必然的に世帯主となるためこちらも同様に住宅手当を受け取れます。
➂住んでいる物件が賃貸かどうか
住んでいるのが賃貸物件なのか、それとも持ち家なのかによって、住宅手当の支給条件が異なります。賃貸物件の場合は支給対象となりますが、持ち家の場合は条件から外れることがあります。
仮に持ち家で住宅手当が支給される場合でも、賃貸物件と比べて支給額が少ないことがあるため、支給条件をよく確認しておきましょう。
住宅手当(家賃補助制度)のメリット
住宅手当(家賃補助制度)は、家賃を一部負担してもらうため、社員側だけに多くのメリットが感じられますが、これは企業側にも大きな魅力がある制度といわれています。
それぞれの立場から、どのようなメリットを得られるのか見てみましょう。
企業側のメリット
企業側が住宅手当を設けるには、主に以下のような理由が挙げられます。
・福利厚生の充実による求人応募者増加
・従業員のモチベーションアップ
すべての企業が住宅手当を設けているわけではなく、福利厚生の面で他社との差別化を図り、アピールができる点はメリットです。
求職者から見れば、住宅手当を魅力的な福利厚生として考える人もおり、企業に良いイメージを持ち、応募者増加が期待できます。
また、支給条件を満たせば従業員は住宅手当を受け取れます。家賃負担を軽減したい人や住宅ローンを組んでいる人に喜ばれ、従業員のモチベーションアップの他、人材の定着にも効果的です。
社員側のメリット
社員側のメリットは、主に以下の2つです。
・家賃負担により生活に余裕が生まれる
・住む場所・物件の選択肢が広がる
社員側にとっての大きなメリットは、やはり経済的負担の軽減です。
固定費の多くを家賃が占める中、家賃の負担が減ればその分を娯楽や交際費など他の用途に回すことができます。経済的負担が減ると精神的にも余裕ができ、仕事のモチベーションも高まります。
また住宅手当により、住む場所の幅が広がるのもメリットのひとつです。住宅手当がない場合は、家賃の安い郊外にしか住めなかったり、希望に沿わない間取りや設備の賃貸物件に住んだりするなど、様々な制限が課せられます。
しかし、住宅手当があることで、会社に近い場所や希望の部屋に住めるなど、自分が望む場所・物件に住める可能性が高くなります。
なお、「会社から◯km以内は上限◯万円まで支給」といった条件がある住宅手当もあるため、申請の前に各種条件をチェックしておくと安心です。
地方自治体の家賃補助制度が活用できることもある
企業だけでなく、地方自治体から家賃補助を受けられるケースもあります。
たとえば、東京都新宿区の「民間賃貸住宅家賃助成」は、新宿区内の民間賃貸住宅に住む子育てファミリー世帯に月額3万円、最長5年間の家賃補助をする制度です。年に一度申し込みを受け付け、募集予定数を上回った場合は抽選となります。
大阪府には、「特定優良賃貸住宅」という公的賃貸住宅制度があります。
これは、中堅所得者向けに良質な住宅を提供することを目的にしている制度です。ただし、細かい条件を満たさなければ利用できない制度なので、気になる方はホームページで確認してみましょう。
ファミリー層や新婚夫婦を対象とする補助制度が多い中、新潟県佐渡市の「若者移住家賃補助金」では「満年齢が40歳未満の単身者」も対象に含まれます。
佐渡市に新たに転入した若者世帯が対象で、佐渡市内の民間賃貸住宅か「佐渡市空き家情報」ページに掲載された物件を借りた場合、家賃を1年間、最大月額20,000円が補助されます。
地方自治体の家賃補助制度は、対象者の多くが高齢者やファミリー層向け、新婚夫婦です。しかし、なかには佐渡市のように単身者も活用できる家賃補助制度があるので、細かい条件を調べたうえで利用できるかどうか判断しましょう。
住宅手当の有無や内容を確認して家賃を抑えよう
住宅手当は企業の福利厚生制度のひとつで、企業によって制度の有無や支給額がそれぞれ異なります。住宅手当があれば従業員の経済的負担が軽減し、企業にとっても従業員にとってもメリットのある制度です。
しかし、「同一労働同一賃金」の導入やテレワークの浸透などにより、住宅手当を廃止し、別の制度に移行する企業も少なくありません。。
企業の住宅手当がない場合、自治体ごとの家賃補助制度を活用することも検討しましょう。企業同様、地方自治体ごとに支給条件が異なりますが、条件を満たせば安く賃貸物件に住むことが可能です。
各企業や自治体の住宅手当の有無や条件を確認し、家賃の負担を減らしましょう。