少子高齢化社会が進み、65歳以上の高齢者の単身世帯は増えている一方、高齢者の賃貸物件への入居を大家さんから断られるケースがあります。なぜ、高齢者の賃貸物件契約はスムーズに進まないのでしょうか。
今回は、高齢者が賃貸物件の契約を敬遠される理由や、高齢者でも物件を契約するための3つのポイントについて詳しく解説します。
目次
高齢者の賃貸物件契約が難しい理由
国土交通省の「新たな住宅セーフティネット制度における居住支援について」によると、高齢者の入居に対し約8割の大家さんが拒否感を持っていると回答しています。
参考:国土交通省 「新たな住宅セーフティネット制度における居住支援について」
大家さんが高齢者の入居に消極的なのは、主に以下のような懸念事項があるからだといわれています。
1.事故や孤独死の不安
2.金銭面の不安
まずは、高齢者が賃貸物件の契約が難しいといわれている理由について見てみましょう。
難しい理由①:事故や孤独死の不安
高齢者の場合、居室内での転倒事故や突然の病気など、健康面のリスクが高いことが入居を断られる原因のひとつです。特に一人暮らしの高齢者の場合は身寄りのない方も多く、それらを懸念点ととらえる大家さんも多いです。
内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によると、東京23区に住む65歳以上の一人暮らしの方で、自宅で死亡した人の数は、3,936人(令和元年)にものぼると記録されています。入居時はたとえ元気でも、契約中に病死や不慮の事故などが起こる可能性はゼロではありません。
参考:内閣府「令和3年版高齢社会白書(全体版)」
また、孤独死は発見が遅れると特殊清掃が必要な場合もあり、その場合事故があった部屋は心理的瑕疵物件、いわゆる事故物件として扱われる可能性があります。
大家さんにとっては、次の入居者が見つからないなど経営面でのリスクを伴うため、高齢者の入居に躊躇するというわけです。
難しい理由②:金銭面の不安
定年後に年金で生活している高齢者の場合、収入面に不安があり家賃の支払いが滞る可能性があります。なかには年金を満足に受け取れない高齢者も多く、このような方は支払い能力が低いと判断され、入居が難しくなります。
高齢者が賃貸物件を借りるためのポイント
前出の内閣府「令和3年版高齢社会白書」によると、2015年の65歳以上の一人暮らしは男性が約192万人、女性が約400万人であり、一人暮らしをしている高齢者が多くいることがわかります。つまり、高齢者でも賃貸物件を借りることは不可能ではありません。
しかし先述のとおり、健康面や金銭面のリスクから入居を断られるケースが少なくありません。ここからは、高齢者でも断られることなく、スムーズに賃貸契約を結ぶためのポイントを紹介していきます。
1.預貯金額や年金以外の収入源を提示する
2.家族やケアマネジャーなどの助けが借りられることを伝える
3.各種サービス・制度を活用する
上記3つについて、詳しく確認していきましょう。
ポイント①:預貯金額や年金以外の収入源を提示する
大家さんが不安なのは、収入が安定していないことによる家賃滞納です。つまり、金銭面での不安がないことをアピールすれば、入居を受け入れる可能性が高まるといえます。
もし現役で働いているなら、安定した収入源があることを伝えましょう。
リタイアしている場合は、十分な預貯金額を提示するなど、家賃の支払い能力があることを証明してください。
また年金以外にも収入があるのであれば、それを大家さん側に示しましょう。
なお、家族が連帯保証人になることで、審査が通りやすくなる可能性があります。仮に入居者が家賃を滞納しても、家族が保証人になっていれば支払いが滞るリスクが減るからです。
ポイント②:家族やケアマネジャーなどの助けが借りられることを伝える
2つ目のポイントは、近くに家族が住んでいること、あるいはケアマネジャーなどのサポートを受けられることを伝えることです。
定期的に入居者の体調や安否を確認できる人が身近にいれば、大家さんが懸念している孤独死や家賃滞納などの心配もやわらぐでしょう。
ポイント③:各種サービス・制度を活用する
3つ目は、高齢者の一人暮らしをサポートするサービスや制度を利用して、賃貸物件を借りる方法です。
たとえば、一般財団法人高齢者住宅財団では「家賃債務保証制度」という制度があります。これは、高齢者住宅財団が連帯保証人の役割を担い、家賃滞納の不安を取り除いて高齢者が賃貸物件に入居しやすくするために作られた制度です。
参考:一般社団法人 高齢者住宅財団 「家賃債務保証制度のご案内」
また、高齢者の一人暮らしのサポートを行っている自治体もあります。
たとえば、北海道亀田郡七飯町では通院の際の移送や日常生活用具の給付など、高齢者に必要なサービスを提供しています。
参考: 七飯町役場ホームページ 「在宅生活を支える各種サービス」
自治体によっては上記のようにさまざまな制度・サービスが用意されていることもあるので、まずは最寄りの役所でどんなサポートを受けられるのかを相談してみましょう。
高齢者におすすめの賃貸物件を探す際のポイント
入居の際に気をつけるべきポイントを押さえた後は、実際に住む賃貸物件を探す段階に入ります。
1.家賃が高すぎないか
2.近くに家族や親戚など頼れる人が住んでいるか
3.暮らしやすい間取りや仕様になっているか
いずれも大事なものなので、上記3つのポイントをチェックしてから内見に臨んでみてください。
①家賃が高すぎないか
まずは無理なく支払える家賃の物件を探しましょう。
たとえ貯蓄や収入があり審査基準を満たしたとしても、生活費を圧迫するようであれば、今後の家賃の支払いに苦労することになるかもしれません。
家賃は収入の3分の1が目安とされているので、月々の生活費や貯蓄額などを考えたうえで、無理のない家賃の賃貸物件を探しましょう。
②近くに家族や親戚が住んでいるか
2つ目は、極力家族や親戚など頼れる人が住んでいる地域で賃貸物件を探すことです。家族や親戚が近くに住んでいれば、怪我や病気で困ったときのサポートをお願いしやすくなります。
入居時には不要であっても、一人暮らししているうちに通院の送迎や家具の移動などといった日常生活でのサポートが必要になるかもしれません。
緊急時にもすぐに駆けつけることができるため、近くに家族や親戚が住んでいることはお互いにとって大きなメリットといえます。
③暮らしやすい間取り・設備であるか
3つ目は、高齢者にとって暮らしやすい間取り・仕様になっているかを確認することです。
室内の段差が高すぎないか、2階以上に住むのであればエレベーターが設置されているのかなど、高齢者が安全に暮らせる間取り・設備かどうかを確認しましょう。
高い段差や階段は転倒の危険性があるため、内見の際にチェックしておくべきポイントです。
また、入居後に怪我や病気で車いすを利用する可能性もないとは言い切れません。車いすでも室内に入れる十分な幅があるかどうかも考えておくと、入居後も安心して暮らせるでしょう。
高齢者の賃貸物件に関する相談窓口
先述のとおり、高齢者が賃貸物件を借りる際には、健康面や金銭面に不安を覚える大家さんが多いため、審査が通りづらい場合があります。
一方、高齢者の数は年々増えており、入居を希望する高齢者も多いのが現状です。ここからは、高齢者の入居をサポートする相談窓口をご紹介します。
■住宅セーフティネット制度
「住宅セーフティネット法」は、高齢者や低所得者、被災者などの住宅確保要配慮者に対し、賃貸住宅の供給を促進するために作られた制度です。
各都道府県に相談窓口が設置されており、入居に関する悩み相談や円滑なサポートを行っています。
参考:国土交通省 「新たな住宅セーフティネット制度における居住支援について」
■地域包括支援センター
高齢者の生活に関する総合的な相談を受け付けている窓口で、介護や福祉サービスの提供を行っています。また、日常的な支援相談を行っており、高齢者一人ひとりに必要なサービスや制度の紹介などもしています。
参考:厚生労働省 「地域包括支援センターについて(概要)」
■各自治体による高齢者向け優良賃貸住宅
こちらは県や市などから認定を受けて建設された高齢者向けの賃貸住宅です。バリアフリー設計がされている他、緊急の際の通報システムも備わっており、高齢者が暮らしやすい設備が充実しています。
参考:神奈川県 「県高齢者向け優良賃貸住宅に入居するには」
高齢者でもポイントを押さえれば賃貸物件を借りられる
高齢者の一人暮らしは孤独死や収入面のリスクがあるため、高齢であることを理由に入居を断られることがあります。
しかし、家族や親戚のサポートを受けられること、十分な収入があることを大家さんに証明できれば賃貸契約を結ぶことも可能です。
他にも、自治体や国の支援により賃貸住宅へ入居できるサービスもあります。「高齢者だから入居できない!」と諦めるのではなく、家族や自治体などに相談して解決策を見つけてみてはいかがでしょうか。